夜中にひっそりと昔の自分のHPのフォルダなんぞを漁っていたら、
場所は山形県の山奥にある無人駅。
駅名は風景のまんま「峠」。
駅前には民家が3軒ほどひっそりと佇んでいる。
その他視界に入るのは山、緑、空、誰もいないホーム、登山道のような坂。
平地すらない山奥深い場所。
時は平成14年春のことである。
あれから27年後である。
手動の扉の列車が好きだった。
生まれ育った時代では、すでにこのような列車はほとんど無くなっていた。
しかし、なぜか懐かしい気がして好きだった。
山形から福島に向かうのに運良くこの列車に乗ることが出来た。
とても喜ぶ少年を見て両親が満足そうだ。
その列車は峠の途中で突然進行方向と逆方向に動き出した。
スイッチバックと言うらしい。
父が教えてくれた。
まもなく列車は山奥の無人駅に到着した。
列車が止まっているのに、鳥の鳴声しか聞こえない。
綺麗な白い砂利が敷き詰められたホームに降りる。
その少年はどこへ行っても、記念にと言っては小石をひとつ持ち帰る。
綺麗な白い石を一生懸命に探している。
列車は動き出してから飛び乗ればよい。
乗降客のいないホーム、
その誰もいないはずのホームで、じっと少年を見ている男が一人。
少年は気がつく素振りもみせない。
男が近づいてくる気配を感じ、顔をあげる。
少年は、すぐに理解したようだ。
次に、ホームの反対側に止まっているキャンピングカーと男の妻に目をやる。
驚きも怖がりもしない。
「そうか、僕は30年後、結婚してキャンピングカーに乗っているんだね。」
感傷に浸っている男の感情など構いもせず、
少年は大好きな父と母の待つ列車の扉を慣れない手で開けて消えていった。
昭和50年春のことであった。